境界杭にまつわる法律や裁判例を土地家屋調査士がわかりやすく解説!

お隣りさんとの境にあったはずの境界杭がなくなっている!

お隣りの土地が売却され、建物の建替えに伴い境界に沿って建っていた塀も新しいものに積み替えられた。 古い塀が取壊された際にどうやら業者さんが境界杭も一緒に取ってしまったらしい…
きちんと元あった場所に杭を戻して欲しいのだけど…

境界杭(きょうかいぐい)を無断で動かしたり、撤去すると5年以下の懲役か50万円以下の罰金に処される可能性があります。 刑法による刑事罰なので、前科扱いとなります。 仮にその境界杭が無断で設置されたものであったとしても、無断で撤去すると罪に問われます。

結構厳しい規定ですよね? 

しかし、お隣りさんとの境界を示す境界杭は、それほど大事なものであるということです。
 
そこで今回は、境界杭にまつわる法律や裁判の判例について、境界の専門家である土地家屋調査士が詳しくわかりやすく紹介します!

境界杭について正しく理解し、あなたの土地の境界杭について見直すきっかけとなれば幸いです。

1 現行法のおける境界杭についての規定    

土地の境界を現地において示す上で大切な境界杭ですが、現行法では境界杭について触れられている規定は意外にも多くありません。

1-1 法的な境界杭の位置付け

まずは、現行法における境界杭の位置付けについて見ていきます。

・境界杭はお隣りさんとの共有物であると推定される
・設置義務規定はない
・境界杭=正しい境界であることを保障する規定なし
・勝手に壊したり移動させた場合には、厳しい処罰規定がある

現行法の中では、境界杭としてどのようなものをどのように設置すべきかを規定したものはありません。そもそも(設置費用負担の問題からか)境界点に境界杭を設置しなければならないといった義務規定もありません。
更には、境界杭は長い年月の間に地震や道路工事・外構工事などにより、正しい境界点からズレてしまうこともあるため、境界杭の存在のみをもってそれが正しい境界であることを認める規定もありません。
しかしながら境界杭は、現地において土地境界の目印となり、境界調査の際にはとても重要な物証となり得ることから、その存在を保護するために境界杭を故意的に壊したり、移動させたりして正しい境界をわからなくした者に対しては、厳しい処罰規定が設けられています。

1-2 各種規定

それでは、具体的な各法律の規定を見ていきましょう。

① 民法
民法では、境界杭の設置とその費用について定められています。

第二百二十三条 (境界標の設置)
土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。

第二百二十四条 (境界標の設置及び保存の費用)
境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。

第二百二十九条 (境界標等の共有の推定)
境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。 

要するに民法の第223条及び第224条では、

・ 境界標(境界杭)はお隣りさんと共同して設置することができる。
・ 設置や管理にかかる費用は等分する。
・ 設置に測量が必要な場合は土地の面積割合に応じて費用を負担する。

こととされています。
しかしながら実情は、敷地の売買等により境界標設置の必要が生じ、それを申し出た方が設置に伴う費用を負担するケースがほとんどです。
そして、一度設置された境界標は(設置費用を出した出していないにかかわらず)その境界標に接する土地所有者の共有のものとして扱われます。

② 不動産登記法
不動産登記法は、日常生活の中ではあまり馴染みがない法律かもしれません。

不動産登記法とは…
・ 不動産(土地と建物)の登記に関する制度や手続きについて定めた法律。
・ 私たちの不動産についての権利関係を明らかにすることで、安全かつスムーズな不動産取引ができるようにすることを目的としている。

 
不動産登記法の内容を実行するために、細かな手続きについてを定めた不動産登記規則の中で境界標について触れています。

第七十七条 第一項 
地積測量図には、次に掲げる事項を記録しなければならない。
              略
第九号
境界標(筆界点にある永続性のある石杭又は金属標その他これに類する標識を
いう。)があるときは、当該境界標の表示

分筆登記(※1)や地積更正登記(※2)の申請の際に必要となる地積測量図には、境界標が現地に設置されている場合は、その種類を記載しなければならないとしています。

※1 分筆(ぶんぴつ)登記…1つの土地として記録されている土地を2つ以上に分割するための登記
※2 地積更正(ちせきこうせい)登記…法務局(登記所)において記録されているその土地の面積を実際に測量した結果の面積に訂正するための登記

③ 刑法
どのようなことをすると犯罪になり、それに対してどのような罰則があるのかを定めている刑法の中に境界損壊罪というものがあります。

第二百六十二条の二 (境界損壊)
境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

現地に設置されている境界標を無断で壊したり、撤去したり、別の場所に移動させたりして故意的に境界をわからなくした場合、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
また、境界がわからなくなるまでの状態ではなくても境界標を壊した者に対しては、器物損壊罪が適用される可能性があります。

第二百六十一条 (器物損壊等)
- 略 - 他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

3年以下の懲役または30万円以下の罰金か科料に処されます 

 コラム:【お隣りさんとの境にある境界杭を抜いてしまいました。 これって大丈夫?】

ケース①
その境界杭の位置は自分が持っている境界図の寸法と一致せず、正しい境界を示しているものではないため、紛らわしいので撤去した。

ケース②
お隣りさんとの境にある塀の積み替え工事の際に、工事屋さんがうっかり既存の境界杭を抜いてしまった。

⇒ケース① 境界損壊罪にあたる。
たとえその境界杭が自分が認めていないものや自分の費用で設置したもの、もしくは無断で設置されたもの(本来、無断で設置できるものではありませんが)であったとしても、お隣りさんに無断で壊したり撤去したり移動させたりすると境界損壊罪に問われる可能性があります。

⇒ケース② 境界損壊罪に問われる可能性は低い。
境界杭を抜いてしまったことについて故意ではないことを立証できれば罪に問われる可能性は低いでしょう。
       
ただし、いずれの場合もそのままの状態を放置しておくと境界トラブルの元となるため、一刻も早く土地境界の専門家である土地家屋調査士に相談・復元の依頼をして下さい。

2 不動産管理における境界杭

法律による設置義務はないものの、財産保全・不動産管理する上で現地の境界杭が果たす役割は、とても重要なものです。境界杭の役割と境界杭を設置する意義について解説します。

2-1 境界杭の役割・意義

境界杭の役割 = 目には見えない土地と土地との境(筆界)を現地においてはっきりと示すこと。
境界杭設置の意義 = 現地において境界をはっきりと示すことで、境界トラブルを未然に防ぎ、土地の売買や相続の際にスムーズに手続きを進められること。

(目に見えない境界の目印となる境界杭)
境界杭は上記のような役割・意義を持っており、隣接地との境界を調査する上でもとても重要な物証となり得るものなので、その存在を保護するために刑法において厳しい処罰規定が設けられています。

2-2 境界杭設置の依頼・相談について


境界杭は隣りの土地との境界を示す目印ですから、正しい位置に設置しなければ意味がありません。それどころか誤った位置に設置された境界杭は、境界トラブルの元でしかありません。正しい位置に設置するには、必要な範囲を測量し、測量データと境界についての資料と照らし合わせるなど専門的な知識と技術が必要となります。

境界杭設置の際には、土地家屋調査士に相談しましょう。

3 境界杭にまつわる判例


境界杭に関する過去の裁判例についてご紹介します。

最高裁判決 昭和43年6月28日 昭和42(あ)2891号
内容:境界標として設置した丸太(直径約8cm・長さ約1m) 32本を切り倒したことで、土地の境界を認識できないようにしたとして、境界損壊罪の成立を求めた。
判決:境界損壊罪にはあたらない。境界毀損罪が成立するためには、境界を認識することができなくなるという結果の発生することを要する。 本件においては、丸太の地上部分が切断されているものの地中部分(約20cm)が残存しており、これにより境界が不明になったという事実を認めるには十分でない。
東京高裁判決 昭和61年3月31日 昭和60(う)1126号
内容:被告人所有の畑と原告所有の畑の境界に所在する通路上に以前から埋設されていた自然石五個を掘り起してその場から除去し、更に当該通路部分を耕作したことで、境界を認識することができないようにしたとして境界損壊罪の成立を求めた。
判決:境界損壊罪に当たる。懲役6ヶ月 (執行猶予2年)
刑法262条の2にいう「土地の境界」とは、法律上あるべき境界ではなく事実上ある境界を意味し、古くから一般に承認されてきた境界は法律上あるべき 境界と一致していなくても同条によって保護されることは明らかであるから、当該自然石及び通路が境界を画する役目を果たしていたものである限り、 被告人の行為は、同条にいう「境界標」及び「境界標に準ずるもの」を移動、損壊して土地の境界を認識することをできなくしたものというほかはない。

4 まとめ

境界杭は、現地において境界を示す目印をして重要なものですが、地震や工事などの後発的な事由によりその位置が動いてしまうこともあります。 また、境界杭がないことで将来、トラブルの元となる可能性もあります。

説明する会社員 土地家屋
調査士

現 地:境界杭の設置
自 宅:筆界確認書の取り交わし・保管
法務局:地積測量図を提出し、筆界を公示

ここまで備えておけば、土地の売却や相続の際に安心してスムーズに事が進められるでしょう。

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