
「私にもしものことがあっても、子供たちが揉めないように遺言書を書いておこう」 「長男には自宅の土地を、次男にはアパートの土地を遺そう」
ご家族を想い、終活の一環として「公正証書遺言」の作成を検討されている方は多いと思います。
そのお気持ちと行動力は、本当に素晴らしいものです。
しかし、数多くの相続現場に立ち会ってきた土地家屋調査士として、一つだけどうしてもお伝えしなければならないことがあります。
「その遺言書に書こうとしている土地の面積は、本当に正しいものですか?」
もし、その面積が登記簿上の古い数字(公簿面積)のままだとしたら、あなたの書いた遺言書は、皮肉にも「争族の火種」になってしまうかもしれません。
「長男と次男で平等に分けたつもりだったのに、実は長男の土地の方が2割も狭かった」そんな事実が、相続発生後に判明したらどうなるでしょうか。
今回は、遺言書を書く前に必ずやっておくべき「土地の健康診断(現況測量)」の重要性について、事例を交えながら徹底解説します。
目次
1. 「登記簿の面積」を信じてはいけない理由

多くの方が、「法務局の登記簿(全部事項証明書)に書いてある面積=正しい面積」だと思い込んでいます。
しかし、土地家屋調査士の常識は異なります。
「測ってみなければ、本当の面積は誰にも分からない」のです。
明治時代の測量技術と現代のギャップ
日本の土地登記の基礎は、明治時代の「地租改正」まで遡ります。
当時の測量は、現代のようなGPSや光波測距儀ではなく、縄や歩測(歩幅で測る)といった原始的な方法で行われていました。
また、当時は税金を少なく申告するために、わざと面積を小さく登録する慣習もありました。
法務局に「地積測量図」が備え付けられていない土地や、昭和40年代以前の古い図面しかない土地の場合、登記簿の面積と実際の面積がズレている確率は、極めて高いと言わざるを得ません。
「縄伸び」「縄縮み」が引き起こす資産価値のズレ
実際の面積が登記簿より広いことを「縄伸び(なわのび)」、狭いことを「縄縮み(なわちぢみ)」と呼びます。
都心部の一等地では、わずか1坪(約3.3㎡)違うだけで、資産価値が数百万円変わります。
「登記簿上は100坪あるはずなのに、測ってみたら90坪しかなかった」。
このマイナス10坪(数千万円相当)の損失は、誰が被るのでしょうか?
この「隠れた誤差」を知らないまま遺産分割の計画を立てることは、目隠しをしてケーキを切り分けるようなものであり、非常に危険なのです。
2. 【ケーススタディ】良かれと思った遺言が招いた兄弟の亀裂

ここで、「登記簿を過信した遺言」によるトラブル事例をご紹介します。
事例:Aさん(80代男性)の失敗
都内に2つの土地(甲土地・乙土地)を所有していたAさん。
登記簿上、甲土地は50坪、乙土地も50坪でした。
Aさんは長男に甲土地、次男に乙土地を相続させる旨の遺言書を作成しました。
「これで二人とも平等だ」と安心していたのです。
【相続発生後】 Aさんが亡くなり、長男と次男が土地を売却しようと測量を入れたところ、衝撃の事実が判明しました。
- 甲土地(長男):実測60坪(縄伸び)
- 乙土地(次男):実測45坪(縄縮み)
登記上は同じ「50坪」でしたが、実際には15坪もの差があったのです。
路線価が高い地域だったため、資産価値の差額は約3,000万円にも上りました。
遺留分侵害額請求へ発展する最悪のシナリオ
次男は激怒しました。
「親父は長男ばかり可愛がっていたのか!」 長男は「遺言通りにもらっただけだ」と主張しましたが、次男は納得できず、弁護士を立てて「遺留分(最低限相続できる権利)」の侵害を主張。
結局、長男が現金で差額を補填することになり、兄弟の仲は完全に決裂してしまいました。
もし、Aさんが遺言を書く前に測量をしていれば、「乙土地に預貯金を上乗せして調整する」といった対策が取れたはずです。
正確な数字を知らなかったばかりに、Aさんの「平等にしたい」という想いは、逆の結果を招いてしまったのです。
3. 遺言書作成における「特定」の重要性

遺言書の実務において、もう一つ重要なのが「物件の特定」です。
特に、一つの広い土地を「ここで半分に切って、それぞれに相続させる」というケース(分筆を伴う相続)では、現場を知らない書き方が命取りになります。
1. 「東側半分」が危ない理由は、半分“だから”ではなく「線が決まっていない」から
自筆証書遺言などで見かける典型的な失敗例が、以下のような書き方です。
「自宅土地の東側半分を長男に、西側半分を次男に相続させる」
一見、公平に見えるかもしれません。しかし、現場ではすぐに次のような疑問が噴出し、手続きがストップします。
- どこからが東側なのか? 真ん中で直線を引くのか?
- 建物の壁に沿って切るのか?
- 道路と平行に切るのか? それとも間口(道路に接する幅)を均等にするのか?
- “半分”とは「面積が50%」のことか? それとも「価値が半分」のことか?
この「分筆線(境界線)」が座標や図面で一義的に特定できていないと、その遺言書だけでは分筆登記を完了させることが困難なケースが出てきます。
結果として、遺言があるにもかかわらず、「相続人全員の合意(実印・印鑑証明)が必要」となり、「遺産分割協議書レベルの話し合いに戻る」という本末転倒な事態が起きてしまうのです。
2. 実務では「曖昧に半分」→確定測量→50%分筆、は“あり得る”。ただし条件は揉めどころ
ここが重要なポイントですが、「曖昧な遺言だから絶対に手続きができない」わけではありません。 実務上は、以下のような流れで進む可能性もあります。
1. まず確定測量(境界確定)をして、全体の面積を確定させる。
2. その上で「全体の50%ずつ」に分筆して、各相続人へ承継する。
この流れ自体は可能です。しかし、「50%を実現するための条件」を誰が決めるのでしょうか?
ここが最大の争点になります。
- 分筆線は、東側の道路に平行にするのか?
- 間口(道路に接する幅)を均等にするのか?
- 既存の建物、塀、給排水、電気・ガスの引込線をどう扱うか?
- 駐車場や庭、通路などの「利用実態」をどう分けるか?
つまり、遺言で「半分」とだけ書くと、分筆案の“具体的な仕様”を相続人同士が話し合って決めなければならないことになりやすく、これでは遺言を書いた意味が薄れてしまいます。
3. 面積50%で分けても「価値が半分」にならない危険がある
実務で最もトラブルになりやすいのが、「面積」と「価値」のズレです。
たとえ面積をきっちり50%ずつに分けたとしても、価値が大きく開くことがあります。
① 片方だけ“接道”して、もう片方が未接道になるリスク 面積だけ半分にしても、以下のような切り方になってしまえば悲劇です。
- 片側だけが建築基準法上の道路に接続している。
- もう片方が未接道となり、再建築不可(家が建てられない土地)になる。
「せっかく半分にしたのに、もらった土地には家が建てられない」となれば、受け取る側の納得感は崩壊し、争いの火種になります。
実務では、面積を半分にする前に「両方の土地が法的に建築可能(接道要件を満たす)な形で切れるか」を専門的な視点で確認する必要があります。
② セットバック・隅切りで“使える面積”がズレる 角地や二方向道路に面する土地の場合、形によっては「セットバック(道路後退)」や「隅切り(角を落とす)」が必要となり、建築に使える有効面積(有効宅地)が減ることがあります。
- 減歩前の面積で50%ずつに分けたはずが、
- 減歩後(実際に使える面積)で見ると、片方だけ極端に小さい。
このような「見えない不公平」は、売却時や利用時に数百万円?数千万円の差となって現れます。
4. 実務で止めない書き方:遺言は「半分」ではなく「線」で指定する
「将来分筆することを前提」とした遺言を残す場合、トラブルを防ぐ王道の手順は以下の通りです。
1. 土地家屋調査士に依頼する: 確定測量、または少なくとも分筆検討に足る現況測量を行います。
2. 分筆案(仮測量図)を作成する: 接道、セットバック、隅切りなどの法的制約を織り込んだ“揉めない案”を作ります。
3. 図面を添付して「線」を特定する: その図面を遺言書に添付し、点名(座標)で分筆線を指定します。
【遺言書の記載イメージ】
「別紙図面(分筆案)に表示したA点-B点-C点を結ぶ線を分筆線とし、分筆後の東側土地を長男に、西側土地を次男に相続させる」
ここまで具体的に落とし込めれば、「東側半分」という曖昧な概念ではなく、誰が見ても同じ線になる“指定”となり、手続きがスムーズに進みます。
5. それでも揉めそうなときの“逃げ道”を遺言に入れる
現場では、どれだけ準備しても、分筆が計画通りに進まない事態(お隣との境界立会いがまとまらない、法規制が変わるなど)が起こり得ます。
そこで実務的には、遺言にバックアップ条項(代替案)を用意しておくことが非常に有効です。
- 換価分割の指定:「上記の分筆ができない場合は、当該土地を売却(換価)し、その代金を各2分の1の割合で取得させる」
- 代償金の調整:「上記の分筆結果により、評価額に著しい差が生じる場合は、その差額を現金で調整する」
こうした「逃げ道」を作っておくことで、「分筆できない=遺言の執行不能(詰み)」という最悪の事態を避けることができます。
6. 実務で大事なのは「面積の50%」より「使える50%」
- “曖昧に半分”でも手続きが進む可能性はあるが、条件闘争になりやすい。
- 面積が半分でも、接道や再建築の可否で価値が激変することがある。
- 遺言で手続きを止めないコツは、「半分」等の言葉ではなく「図面+点名」で線を特定すること。
- さらに「分筆できない場合」の逃げ道条項を入れておけば、遺言はより強固になる。
正確な測量と、実務を知り尽くした「線の引き方」こそが、円満な相続への近道なのです。
4. 正しい手順は「測量」→「遺言」の順

「争族」を防ぎ、あなたの想いを確実に実現するための正しいステップは、以下の通りです。
ステップ①:現況測量(土地の健康診断)
まずは、お隣との境界確認までは行わずとも、所有地の大まかな形状と実際の面積を把握する「現況測量」を行います。
これにより、「登記簿とどれくらいズレがあるか」「実際に使える面積はどれくらいか」が判明します。
この正確なデータを元に、税理士と相続税のシミュレーションを行い、誰にどの資産を割り振るのが公平かを検討します。
現況測量について詳しくお知りになりたい方は、【境界の専門家が解説】現況測量とは?土地の現況を知るための第一歩」ご参照ください。
ステップ②:境界確定測量(デトックス)
遺言の内容が固まってきたら、可能であれば生前のうちに「境界確定測量」まで進めることを強くお勧めします。
お隣との境界を確定させ、境界標(杭)を設置し、「筆界確認書」を取り交わします。
これにより、土地の境界トラブルという「負の遺産」を子供たちに残さずに済みます。
また、確定測量が完了していれば、相続後の売却や物納もスムーズに進みます。
境界確定測量について詳しくお知りになりたい方は、「土地の価値を高める境界確定のすすめ」をご参照ください。
ステップ③:地積更正登記(カルテの修正)
測量の結果、登記簿の面積と実測面積が異なる場合は、「地積更正登記」を行い、登記簿の数字を正しいものに修正します。 これで名実ともに「正しい土地」になります。
ステップ④:公正証書遺言の作成
最後に、確定した測量図面に基づいて、公証役場で遺言書を作成します。
「土地家屋調査士法人えん」が作成した高精度の図面を添付することで、登記手続き上のトラブルを完全に排除した、鉄壁の遺言書が完成します。
5. 土地家屋調査士法人えんのサポート体制

私たち「土地家屋調査士法人えん」は、単に測量をするだけの業者ではありません。あなたの「終活」を技術面から支えるパートナーです。
弁護士・司法書士・税理士との連携
遺言書の作成には、法的な知識(弁護士・司法書士)と税務の知識(税理士)、そして土地の実態把握(土地家屋調査士)の3つが不可欠です。
私たちは、相続に強い各専門家と緊密なネットワークを持っています。
「遺言を書きたいが、まずは土地のことを整理したい」というご相談窓口として、ワンストップで最適なチームを組成し、あなたをサポートします。
遺言書作成の前提となる「確定測量」のプロフェッショナル
特に、都心部の複雑な土地や、広大地、お隣との関係が難しい土地の測量において、私たちは豊富な実績を持っています。
「遺言書のために測量をしたい」とお伝えいただければ、ご家族に波風を立てないよう配慮しながら、迅速かつ静粛に調査を進めることも可能です。
6. まとめ:本当の愛は「正確な数字」の上に成り立つ

「家族の仲が良いから大丈夫」 そう仰る方ほど、いざ相続となるとボタンの掛け違いが起こりやすいものです。
感情のもつれは、一度起きてしまうと修復が困難です。
しかし、「数字」は嘘をつきません。
正確に測量された土地のデータは、誰が見ても公平な、客観的な事実です。
この客観的な事実に基づいて遺言書を作成することこそが、親として子供たちにできる、最大の「優しさ」ではないでしょうか。
「とりあえず、うちの土地の本当の広さを知っておきたい」 「遺言書に付ける図面を作ってほしい」
そんなご要望がありましたら、ぜひお気軽に「土地家屋調査士法人えん」にご相談ください。
あなたの想いを、確かな「カタチ(図面)」にして、未来へ繋ぐお手伝いをさせていただきます。



