
「亡くなった父の家を相続しようとして登記簿を取ったら、土地しか載っていなかった」 「実家を売ろうとしたら不動産会社に『この建物、未登記ですね』と言われた」
相続手続きが始まったタイミングで、突然こんな現実にぶつかる方は少なくありません。
目の前に確かに家が建っている。
固定資産税の通知も毎年届く。
それなのに、法務局の記録上は「建物が存在しない」。
- 「違法建築なの?」
- 「売れない? 住めない?」
- 「過料(罰金みたいなもの)って本当?」
不安になるのは当然です。
ですが、まず結論からお伝えします。
未登記=違法建築ではありません(論点が別です)。
そして、未登記建物は珍しい話ではありません。
大事なのは、“未登記の種類”を見極めて、正しい順番で正常化することです。
この記事では、土地家屋調査士法人えんが、未登記が起きる背景から、必要書類、そして「資料がない場合の現実的な打ち手」まで、手順をロードマップ化して解説します。
目次
1. STEP0:まず最初にやるべきこと(ここを飛ばすと事故ります)
「土地しか載っていない=未登記」とは限りません。
なぜなら、土地と建物は登記が別だからです。
最初に確認すべきは、法務局で「建物の登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得して、以下のどのタイプか見極めることです。
未登記には3タイプあります
- タイプA(完全未登記): 建物の登記記録が”まったく無い”(表題部がない)。
- タイプB(保存登記未了): 表題部(物理的状況)はあるが、権利部(所有者)が入っていない。
- タイプC(一部未登記): 建物は登記されているが、増築部分などが反映されていない(表題部変更が必要)。
この判定を間違えると、手続きの入口が変わってしまいます。
2. なぜ起きる? 固定資産税は払っているのに「未登記」の謎

「税金を払っている=登記されているはず」 この思い込みが、いちばん多い誤解です。
固定資産税の”課税”と、法務局の”登記”は別ルート
- 固定資産税(市町村): 自治体が家屋を把握して課税します。登記の有無にかかわらず、「現に建物がある」と判断されれば課税対象になります。
- 不動産登記(法務局): 原則として所有者からの申請が必要です。申請がなければ登記記録は作られません。
つまり、「税金は取られているけれど、権利証(登記識別情報)などの法的な整備が未完」というねじれ現象が起きるのです。
3. 放置は危険! 未登記建物をそのままにする3つの実害

「今まで困らなかったし…」と放置しがちですが、相続が起きた今こそ、問題が表面化します。
リスク1:売却・担保(ローン)の場面で止まりやすい
買主が住宅ローンを使う場合、金融機関は担保評価・抵当権設定を前提に審査します。未登記(または権利未整備)だと、そこで手続きが詰まり、売買が成立しません。
リスク2:相続の整理が”建物だけ”宙に浮く
土地は相続登記を進められても、建物が未登記だと「建物の名義整理」が別立てになり、遺産分割・売却・解体などの判断が難しくなります。 ※相続登記は2024年(令和6年)4月1日から義務化されており、放置リスクは高まっています。
リスク3:第三者に対して主張しづらい(対抗要件の問題)
不動産の権利変動は、登記をしないと第三者に対抗できないのが原則です。未登記建物は、そもそも権利登記の土台がなく、主張の組み立てが弱くなります。
4. 解決のゴールは「建物表題登記」+(必要に応じて)「所有権保存登記」

未登記のタイプ別に、ゴールを整理します。
- タイプA(表題登記なし): ①建物表題登記(調査士) → ②所有権保存登記(司法書士)
- タイプB(表題あり/権利なし): ②所有権保存登記からスタート(場合により表題部の変更・更正が必要)
- タイプC(増築等未反映): 建物表題部変更登記を行う
重要:表題登記は「義務」です(期限と過料)
新築建物の表題登記は、法律上、所有権を取得した日から1ヶ月以内に申請しなければならないとされています(不動産登記法第47条第1項)。
正当な理由なく義務違反がある場合、10万円以下の過料の規定があります。
5. 【完全ガイド】未登記建物を登記する5ステップ(タイプA想定)

STEP1:資料調査(まずは「家の履歴」集め)
探すもの(あるほど有利):
- 建築確認済証・検査済証
- 工事請負契約書・領収書・引渡証明書
- 火災保険証券、ローン契約書
- 固定資産税の課税明細・評価証明書(年次の手がかり)
STEP2:現地調査・作図(土地家屋調査士のコア業務)
土地家屋調査士が現地で以下を行います。
- 建物の外周・形状を確認
- 外観、内観の写真撮影
- 各階床面積を算出(登記の基準で計算)
- 建物図面・各階平面図を作成
STEP3:所有者をどう入れるか決める(相続案件の肝)
相続が絡む場合、「誰名義で表題部所有者にするか」の設計が重要です。
- 遺言や遺産分割で確定済: その取得者で進める
- 未確定①: 法定相続分の共有で入れる(後で整理)
- 未確定②: 被相続人名義で登記を入れ後で遺産分割協議
*原始取得者から複数回相続が発生していると、未確定②のパターンで登記できない場合があります。
STEP4:法務局へ申請(表題登記)
書類が整ったら、管轄法務局へ申請します。未登記案件は事前相談が必要なケースも多いです。
STEP5:登記完了 → 次に「所有権保存登記」へ
表題登記が完了すると、建物が登記記録上”存在する状態”になります。その後、司法書士が所有権保存登記を入れて、権利を整えます。
6. 資料がない! そんなときの現実的な「集め方」

「確認済証も契約書もない」──相続現場ではよくあります。 この場合は、“代替資料を積み上げて”登記官を説得する発想に切り替えます。
使える可能性があるもの
- 固定資産税評価証明書・課税台帳(建築年次や所有者推定の手がかり)
- 納税証明書
- 工務店が現存するなら工事証明・引渡証明
- 火災保険、ローン、公共料金の契約履歴
- 相続関係資料(戸籍一式など)
また、最終手段として「上申書(じょうしんしょ)」を活用し、相続人全員の実印で「父が所有の意思を持って建てた」ことを証明することもあります(※管轄により運用が異なります)。近隣住民などから上申書をもらうケースもあります。
7. よくある質問(Q&A)
Q1:未登記って違法建築ですか?
A:別問題です。 未登記は登記法上の問題、違法建築は建築基準法上の問題です。未登記だからといって直ちに違法建築(是正命令対象)になるわけではありません。
Q2:過料って必ず取られますか?
A:法律上は過料規定があります。 ただし”必ず”とは言えず、個別事情で運用は変わります。とはいえ、放置は推奨されません。
Q3:相続人が多くても進められますか?
A:進められます。 ただし「誰を表題部所有者にするか」の設計が重要です。専門家にご相談ください。
8. 費用と期間の目安

期間の目安
- スムーズな場合: 数週間~1ヶ月程度
- 資料不足・相続人多数: 2~3ヶ月
申請後の審査自体は比較的短くても、前段の資料収集やハンコ集めがボトルネックになりがちです。
費用の目安(土地家屋調査士報酬)
- 建物表題登記: 15万円~(規模・難易度で変動)
※表題登記自体は登録免許税が非課税ですが、その後の保存登記には税金がかかります。
9. まとめ:その家を「負動産」にしないために

未登記建物は、放置するほど資料が消え、人がいなくなり、解決が難しくなります。 大事なのは、焦って申請することではなく、以下の順番で最短距離を取ることです。
- 未登記のタイプ判定(STEP0)
- 名義設計(誰にするか)
- 資料の組み立て
- 表題登記
- 権利登記
「書類が何もなくて不安」「違法建築かもしれない」「売却期限が迫っている」 どの状況でも、打ち手はあります。
土地家屋調査士法人えんが、未登記という”霧”を晴らし、実家を「動かせる資産」に戻すお手伝いをします。
まずは一度ご相談ください。





