
「隣とは昔から仲がいい。境目なんて今さら…」 長く住み続けた方ほど、そう感じるのは自然なことです 。
顔を合わせれば会釈が返り、困った時は助け合う。
昭和から令和へと積み重ねてきた近所の絆は、まさに財産です 。
しかし、土地家屋調査士として現場を見てきた立場から、あえて率直にお伝えします。
その良好な関係は、相続をきっかけに”別の局面”へ切り替わることがあります 。
あなたにとっては気心の知れたお隣でも、土地を引き継ぐご家族にとっては「たまに挨拶する程度」、あるいは「面識がほぼない」相手かもしれません 。
人と人の距離が広がりやすい時代だからこそ、境界が曖昧なまま代替わりするリスクは以前より大きくなっています 。
まずは、以下のチェックリストをご覧ください。
1つでも当てはまる場合、将来トラブルになる「予備軍」かもしれません。
【境界トラブル予備軍 セルフチェック】
- [ ] 境界標(杭やプレート)が見当たらない、または数本(一部)しか確認できない
- [ ] 塀や擁壁が古く、どちらの所有物か曖昧だ
- [ ] 庭木の枝や屋根、雨どいがお隣へ越境している心当たりがある
- [ ] 「ここは俺の土地だ」と、口約束だけで決めた経緯がある
- [ ] 将来、売却や建替えの可能性がある
今回は、大切な資産を守るだけでなく、良いご近所関係まで”形にして引き継ぐ”ための「生前の境界確認(測量)」について、その重要性を紐解いていきます 。
目次
1. 代替わりで変わる「近隣感情」、善意が権利問題になる瞬間

日本の暮らしには、互いに譲り合う「お互い様」の温度感があります。
屋根や雨どいがわずかに越えていても、室外機が境界ぎりぎりでも、当人同士が納得していれば日常は回ります 。
ところが相続が起きると、その”黙認”が「権利侵害ではないか」という法的な視点で見直され、話の前提がガラリと変わります 。
越境していた「庭木」が思わぬ火種に
典型的な例は庭木の枝葉です 。
以前は収穫の季節にお裾分けをすることで成立していたとしても、土地を相続した子世代が「管理が負担だから更地にしたい」と考えた途端、越境は障害になります 。
相続人が事務的に「枝を落としてほしい」と伝えた瞬間、相手が受ける印象は必ずしも穏やかではありません。
「先代はそんな言い方をしなかった」と感情が絡めば、境界立会いを拒まれたり、手続きの協力に条件が付いたりして、解決までが長期化してしまいます。
「昔こう決めた」は、証拠がなければ止められない
さらに厄介なのが、記録に残らない合意です。
「塀を直した時に、ここを境として話がついていた」
測量図や確認書がない状態でそう主張されても、当時のやり取りを知る人がいなければ、真偽の確認が難しくなります 。
結果として”言った・言わない”の水掛け論になり、精神的にも時間的にも消耗した挙句、譲歩せざるを得ない状況に追い込まれることさえあるのです 。
2. なぜ、親が元気なうちに「境界」を整えるべきなのか

「測量なんて、家を売る時にやればいいだろう」 そうお考えの方も多いですが、私たちは強く「親御様が元気なうち(生前)」をお勧めします 。
その理由は、測量技術の問題ではなく、「人間関係の調整力」にあります 。
あなたの一言が、角を取る
最大のメリットは、あなた自身の「顔」が利くことです 。
「子どもたちに余計な負担を残したくない。私が元気なうちに一緒に確認しておきたいんです」
長年のつながりがあるあなたから、誠意を持ってこう切り出されれば、相手も「協力してあげよう」という気持ちになりやすいものです 。
これが、相続発生後に見ず知らずの子供や不動産業者が訪ねて行って、「境界を決めたいので立ち会ってください」と言うと、相手は身構えます。
「土地を削られるのでは」と警戒心を抱かせてしまうのです 。
お隣さんも高齢化しているという「時間制限」
もう一つ、忘れてはならない視点があります。それは「お隣さんも年を取る」ということです 。
もし、お隣さんが認知症などで判断能力を失ってしまえば、法的に有効な署名・捺印ができなくなります 。
そうなれば成年後見人を立てる手続きが必要になり、解決までの道のりは非常に険しくなります。
「いま話せる相手が目の前にいる」こと自体が、実は期間限定の貴重なチャンスなのです 。
3. 【事例】境界未確定が招いた「ご近所トラブル」混迷事例

ここで、境界の不明確さが引き金になったトラブル事例をご紹介します 。
事例1:ブロック塀の帰属をめぐる押し問答
相続した家の周囲に古いブロック塀があり、相続人は「自分の敷地内の塀だ」と認識していました 。
しかし隣地側は「費用はうちが負担した。だから境界は塀の外だ」と主張。
どちらも当時の資料がありません 。
売却を急いでいた相続人は、争いを避けて相手の主張を認めざるを得ず、結果的に数坪分の土地を失いました。
地価の高いエリアでは数百万円の損失に相当します 。
事例2:時効取得(自分の土地が他人のものになる)の恐怖
民法には、他人の土地であっても一定期間占有し続けると所有権を取得できる「取得時効」という制度があります。
長年の越境を「なあなあ」で放置していたところ、相続後に是正を求めた際、相手からこの時効取得を主張され、裁判に発展。
最終的に土地の一部を失ってしまいました。
「揉めたくないから触れない」は、結果として権利を弱くしてしまうのです 。
事例3:私道・通路の”当然”が、突然止まった
敷地の奥へ出入りするため、隣地の端を昔から通らせてもらっていた通路。
これも口約束のままだと危険です 。
世代が替わった途端に「通行は認めない」と言われ、車庫入れや建替え計画がストップしてしまった例があります 。
通行地役権など法的な整理が必要な場合もあり、早期の棚卸しが不可欠です 。
4. 土地家屋調査士法人えんが提案する「ソフトな境界確定」

境界の確認は、線を引く作業であると同時に、気持ちの整理でもあります 。
だからこそ、私たち「土地家屋調査士法人えん」は、進め方を何より大切にしています。
いきなり作業に入らない。まずは「対話」と「安心」から
経験の浅い事務所だと、いきなり測量機器を据えて相手を驚かせてしまうことがあります 。
私たちは、まず丁寧なご挨拶と目的の共有から始めます 。
- なぜ今、確認が必要なのか
- 境界が明確になることは、お互いの資産を守ることになる
- 測量は一方的に線を引くものではなく、お互いの納得のもとで確認し合う作業であること
こうした点を言葉で整え、不安をほどいてから現地作業へ進みます 。
この入り方の作法こそが、最大のトラブル予防策です 。
「筆界確認書」だけではない、紛失に備えた「確かな記録」
境界が決まっても、工事や災害で「境界標(杭)」が抜けてしまったり、土に埋もれてしまったりすることは珍しくありません。
杭がなくなれば、また「ここはどこだっけ?」という不安が再燃します。
私たちは、単に杭を打つだけでなく、「永続性のある境界標」(コンクリートや金属プレートなど)の設置をご提案します。
さらに、万が一杭がなくなったとしても、「座標データ」や「現地の写真」を残すことで、将来いつでもミリ単位で境界を「復元」できるようにします。
「記憶」ではなく「確かな記録」を残すこと。
これが次世代への最大の贈り物です。
5. 測量は、土地につける「最高品質の保証書」

生前測量を行い、図面や書面が整っている土地は、不動産としての透明性が高まります。
いわば「状態の良い商品」として、資産価値が守られるのです 。
「記録」があれば、売却も物納も即座に可能
将来、土地を売りたいと思った時、境界確定図があれば買い手の不安が減り、取引がスムーズになります 。
逆に境界が曖昧だと、買主から「将来トラブルが起きるかもしれない」と敬遠され、価格交渉の材料にされたり、契約に「境界確定」という厳しい条件を付けられたりします 。
物納など特別な選択肢を検討する場合も、境界確定は絶対条件です 。
子供たちに「謝罪」という負の遺産を残さないために
何より大切なのは、お子様の精神的な負担です 。
境界が曖昧な不動産を引き継ぐと、相続人は近隣へ何度も頭を下げ、お願いをして回らなければなりません 。
親世代が整えておくことは、財産を守るだけでなく、「子の心を守ること」でもあるのです 。
まとめ:良き隣人関係こそ、プライスレスな遺産

境界確認の立会いで、当事者同士が昔話をしながら穏やかに合意へ進む場面に出会うことがあります 。
その姿を横で見ているお子様たちは、「ああ、この土地はこうやって守られてきたんだな」と理解し、お隣さんへの敬意を自然と抱きます 。
これこそが、最も理想的な「隣人関係の承継」だと、私たちは考えます。
測量は、ただの線の確認ではありません。
あなたが長年積み上げてきた「信頼」というバトンを、確かな形にして次世代に渡す儀式です 。
「境界杭が見当たらない」 「そういえば、昔あそこの塀のことで少し揉めたことがあったな」
そんな”小さな引っかかり”があるなら、ぜひ「土地家屋調査士法人えん」にご相談ください 。
技術と対話の両面から、あなたの大切なご家族と、ご近所様の安心を守るお手伝いをさせていただきます 。



