
「こんなことなら、もっと早くやっておいてくれればよかったのに……」 「土地なんて遺してもらわなければよかった」
相続の現場において、故人を偲ぶはずの場所で、このような悲痛な言葉が飛び交う瞬間を、私は何度も目にしてきました。
その原因の多くは、預貯金や株式の分配ではありません。
「土地の境界がわからない」 たったこれだけのことが、仲の良かった兄弟を引き裂き、長年の隣人関係を破壊し、相続税破産という最悪の結末を招くのです。
親御様が元気なうちは、「うちは隣とも仲が良いから大丈夫」「ブロック塀があるから問題ない」と楽観視されがちです。
しかし、その油断こそが、子供たちに背負わせる「見えない負債」であることを、プロフェッショナルとして警告しなければなりません。
今回は、次世代に資産を円満に引き継ぐための唯一の防衛策、「生前測量(境界確定測量)」について、その絶対的な必要性を解説します。
目次
1. なぜ子供たちは「親の代でやってほしかった」と嘆くのか

「私が死んだら、この土地を売って相続税を払い、残りを兄弟で分けなさい」 そう言い残される親御様は多いですが、境界が確定していない土地は、すぐには売れません。
そして、いざ子供たちが動こうとした時、「隣人とのトラブル」に直面する場合もあり得ます。
隣人にとって、あなたの子供は「赤の他人」かもしれない
あなたにとっては「長年仲良くしてきたお隣の鈴木さん」でも、都会に出て行ったあなたの子供にとっては「盆正月に挨拶する程度の人」、あるいは「顔も知らない人」です。
逆もまた然りです。お隣さんからすれば、長年の付き合いがあるあなただからこそ、「まあ、塀が少し越境していてもいいよ」と許してくれていたのかもしれません。
しかし、所有者が子供(赤の他人)に変わった瞬間、その甘えは消滅します。
「代替わりするなら、けじめをつけてくれ」 「越境している枝や塀を撤去しないなら、境界確認書にはハンコを押さない」 そう言われた瞬間、子供たちは立ち尽くします。
親が積み上げた人間関係の貯金は、相続によってゼロリセットされるのです。
「あそこは親父が決めた」という口約束が通じない恐怖
「30年前に、お隣さんと話し合ってここに杭を打ったんだ」 親御様はそう主張しますが、その合意を書面(筆界確認書)に残していなければ、法的には無効に等しいものです。
お隣も代替わりしていたり、認知症になっていたりすれば、「そんな約束は聞いていない」と言われて終わりです。
当時の経緯を知る唯一の証人であるあなたが亡くなってしまえば、子供たちは何の武器も持たずに、ゼロから境界論争を戦わなければなりません。
これがどれほどのストレスか、想像に難くないでしょう。
2. 相続という『バトン』を、スムーズに渡す準備はできていますか?

「測量は、私が亡くなってからやればいい」 そうお考えの方も多いかもしれません。
しかし、準備の整っていないバトンを急に渡されたご家族は、想像以上に厳しいスケジュールのなかで、ゴール(納税)を目指して走らなければなりません。
数字とスケジュールの面から、その現実を見てみましょう。
期限は10ヶ月。走り出してからでは間に合わないことも
相続税は、被相続人が亡くなった日の翌日から 10ヶ月以内 に納付しなければなりません 。
もし、納税資金を作るために土地を売却する場合、この短い期間の間に「遺産分割協議」「境界確定測量」「売買契約」「代金決済」のすべてを完了させる必要があります 。
通常、境界確定測量には3?4ヶ月ほどかかります 。
しかし、もし隣地との境界確認に時間がかかったり、公的な手続きが必要になったりすれば、半年、1年とかかることも珍しくありません 。
測量が終わらなければ、土地を売ることは難しくなるケースもあります 。
もし手続きが間に合わなければ、延滞税がかかるだけでなく、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」といった、税金を抑えるための大切な優遇措置まで使えなくなってしまう恐れがあるのです 。
焦ってバトンを渡そうとすると、思わぬ損失も
不動産業者や買い手は、相続物件であることを敏感に察知します 。
「期限が迫っていて売り急いでいる」と分かれば、相場よりも安い価格を提示されてしまう(買い叩かれる)可能性もあります 。
また、測量においても、期限ギリギリの急な依頼となれば、通常よりも費用が割高になったり、ハンコをもらうために隣人へのお願い(協力金など)が必要になったりと、余計な出費がかさむケースもあります。
親御様が元気なうちに道を整えておけば数十万円で済んだ話が、準備不足のままバトンを渡したことで、数百万円もの損失になってしまうことさえあるのです 。
3. 【最大のリスク】認知症発症で資産が凍結する

「死んでから」の前段階として、さらに深刻なのが「認知症」のリスクです。
これは、土地家屋調査士として最も強く警告したいポイントです。
意思能力がなければ、境界確認のハンコは押せない
境界確定(筆界確認)は、所有者の財産権に関わる重要な法律行為です。
したがって、もし親御様が認知症を発症し、意思能力がないと判断された場合、たとえ生きていらっしゃっても、ご自身で境界確認書に署名・捺印することはできません。
もちろん、子供が勝手に代筆することも許されません(私文書偽造になります)。
成年後見人制度の利用という、重い代償
この状況で測量を進めるには、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任してもらう必要があります。
「土地の境界を決めるためだけ」に、あまりにも重いコストと手間がかかることになります。
「まだ元気だから」ではなく、「元気なうちにしかできない」のが測量なのです。
4. 生前測量がもたらす「3つの安らぎ」

今、生前測量を行うことは、単なる事務手続きではありません。
ご自身の人生の総決算であり、ご家族への最高のギフトです。
【1】資産価値の確定:本当の面積を知り、納税資金を準備できる
登記簿の面積と、実際の面積は違うことが多々あります(縄伸び・縄縮み)。
正確な測量を行うことで、「本当に使える土地の広さ」が確定します。
これにより、正確な相続税の試算が可能になり、「売ればいくらになるか」という皮算用ではない、確実な資金計画を立てることができます。
【2】人間関係の保全:親の顔が利くうちに「境界」を確定させる
「鈴木さん、私が元気なうちに、子供たちのために境界をはっきりさせておきたいんだ」 長年の付き合いがあるあなたからの申し出であれば、お隣さんも無下には断らないはずです。
お互いの記憶がしっかりしているうちに立ち会いを行い、笑顔で確認書を取り交わす。
このプロセスを経ておけば、将来子供たちが挨拶に行った際も、「ああ、お父さんときちんと決めたから大丈夫だよ」と、良好な関係を引き継ぐことができます。
【3】選択肢の拡大:売却、物納、分筆……すべてが自由に
境界が確定している土地(確定測量図がある土地)は、いつでも即座に売却可能です。
また、相続税を土地で納める「物納」を選択する場合も、境界確定は必須条件です。 さらに、「兄弟で土地を分ける(分筆)」場合も、確定測量が前提となります。
つまり、生前測量を済ませておくことは、子供たちにあらゆる「解決の選択肢(フリーハンド)」を与えることになるのです。
5. 土地家屋調査士法人えんの「生前測量」サービス

私たち「土地家屋調査士法人えん」は、単に測量機器を覗くだけの技術者集団ではありません。
地主様の「想い」を形にし、円満な相続を実現するためのコンサルタントです。
「争い」を起こさないための、熟練の交渉術
隣地所有者様への挨拶から、立ち会いの日程調整、境界の確認作業まで、すべて私たちが代行・同席します。
長年の経験から、相手が何を不安に思っているかを察知し、丁寧な説明で誤解を解き、納得してハンコを押していただけるよう最大限の努力を尽くします。
特に、相手が法人や役所の場合のタフな交渉も、組織力を持って完遂します。
ご家族に代わって「土地の履歴書」を完成させる
測量の結果は、「確定測量図」として作成し、必要があれば法務局へ地積更正登記を行います。
さらに、隣接所有者との「筆界確認書」、現地の「境界標(杭)」の写真などを一冊のファイルにまとめ、納品いたします。
これさえあれば、数十年後に何があっても、あなたの土地の権利は揺るぎないものとして守られます。
まさに、土地にとっての「完璧な履歴書」です。
6. まとめ:測量図は、子供たちへの「最後の手紙」

遺言書には、財産の分け方を書くことができます。 しかし、その財産(土地)の範囲そのものを確定させることはできません。それができるのは、生前の「測量」だけです。
親御様が汗水流して守ってきた土地。 それが、子供たちの代で「争いの種」になってしまうことほど、悲しいことはありません。
「面倒なことは、俺が全部片付けておいたから、安心して暮らせ」 そう胸を張って子供たちに言えるように。 そして、子供たちが将来、「やっぱりお父さんは凄かったな、ありがとう」と感謝できるように。
もし、少しでも境界に不安があるなら、土地家屋調査士法人えんへご相談ください。 あなたの「家族を想う気持ち」を、私たちが確かな技術でカタチにします。



