隣地が「法人の土地」や「国有地」の場合、生前測量はさらに重要!

「うちは、お隣が上場企業の社宅だから安心だ」 「道路(区道・市道)に面しているから、境界トラブルなんて起きようがない」

もし、あなたが今そのようにお考えであれば、私は「土地の境界(筆界)を守る専門家」として、あえて強い言葉で警鐘を鳴らさなければなりません。

「お隣が個人ではない」こと。

それこそが、相続における最大のリスク要因になり得る場合もあるのです。

個人の隣人であれば、「お互い様だから」という心情的な話し合いで解決することもあります。

しかし、相手が「法人(企業)」や「国・自治体」の場合、そこに感情は一切介在しません。

存在するのは、冷徹なまでの「ルール」と、気の遠くなるような「決裁プロセス」のみです。

もし、境界未確定のまま相続が発生し、10ヶ月という短い申告期限の中でこれら「巨大な組織」と交渉しなければならなくなったら……。

それは残されたご家族にとって、終わりの見えない悪夢となります。

今回は、不動産をご所有の皆様が陥りやすい「隣地への油断」を払拭し、なぜ大手企業や行政が隣人の場合こそ「生前測量」が必須なのか、その裏事情を徹底的に解説します。

 

 

1. 「お隣がしっかりしている=境界も安心」という致命的な誤解

多くの土地所有者の方が、「隣は大手デベロッパーのマンションだ」「市が管理する公園だ」という理由で、境界について楽観視されています。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。

管理されているのは「利用範囲」であって「筆界」ではない

確かに、企業や役所はフェンスやブロック塀を設置し、適切に管理しているように見えます。

しかし、そのフェンスの位置は、あくまで「便宜上の管理ライン(所有権界)」に過ぎないことが多々あります。

法務局に登記すべき正式な境界(筆界)と、現地のフェンスが数十センチずれているケースは、都心の一等地であっても決して珍しくありません。

いざ測量してみると、「実は会社のフェンスがこちらの土地に越境していた」あるいは「こちらの庭が道路にはみ出していた」という事実が発覚します。

組織担当者は「責任」を負わないよう徹底的に保守的になる

個人の隣人なら「まあ、長年の付き合いだし、そこでいいよ」と言ってくれるかもしれません。

しかし、企業や役所の担当者には「決裁権」がありません。

そのため、彼らは「100%確実な証拠」がない限り、境界確認書(筆界確認書)にハンコを押さないのです。

この「組織的な事なかれ主義」こそが、相続時の手続きを停滞させる最大の要因です。

実例ですが、都心の一等地の境界確定を依頼されたお隣が不動産ファンド(REIT)が持っていました。

収益物件なのでとにかく細かく様々な資料の提出が求められ確定するまでに1年近くかかりました。

ブロック塀=境界の誤解について詳しくお知りになりたい方は「「お隣との境界はブロック塀」は間違った認識!境界の専門家が解説」をご参照ください。

 

2. 隣地が「法人(企業)」の場合の泥沼リスク


お隣が一般企業、鉄道会社、宗教法人などの場合、個人の話し合いとは全く異なる次元の苦労が待ち受けている場合もあります。

【稟議の壁】ハンコ一つもらうのに3ヶ月? 本社決裁の厚い壁

「支店長までは話が通ったのですが、本社の法務部の承認待ちで……」 測量の現場でよく聞く言葉です。

中小企業なら社長の一存で決まりますが、大企業になればなるほど、稟議書が回り、法務チェックが入り、役員決裁が必要になることもあります。

ハンコ一つ押してもらうのに、平気で数ヶ月かかることもあります。

相続税の申告期限が迫る中、この「待ち時間」は精神的に大きな負担となります。

【人事の壁】「当時の担当者は退職しました」で話がリセット

「10年前に隣の会社の総務部長と、境界について口頭で合意した」 残念ながら、その約束は法人の世界では無効に等しいものです。

担当者は数年で異動し、当時の事情を知る人は誰もいなくなります。

新しい担当者は、資料に残っていない約束など認めません。

改めてゼロから測量し、説得し直す労力は、想像を絶するものがあります。

【倒産の壁】隣の会社がなくなったら、誰と境界を決めるのか

さらに恐ろしいのが、隣地を所有する法人が倒産・解散してしまった場合です。

代表者は不在、連絡先も不明。

こうなると、裁判所が選任する「破産管財人」や「清算人」を探し出し、交渉しなければならず相当の時間を要することさえあります。

3. 隣地が「官有地(道路・水路)」の場合の硬直リスク

「役所なら公正に対応してくれるだろう」という期待も、また裏切られることになります。お隣が道路(国道・県道・市道)や水路、公園などの「官有地」である場合、相手は法律の塊です。

絶対に譲歩しない「官民境界査定」の厳格さ

役所との境界を決める手続きを「官民境界査定(かんみんきょうかいさてい)」と呼びます。

ここで求められるのは、明治時代の公図、過去の測量図、航空写真など、客観的な「物証」のみです。

「昔からここを使っていた」という主張(占有の事実)だけでは、役所は決して境界を認めません。

1センチでも官有地に食い込んでいれば、容赦なく構造物の撤去や、土地の買い戻し(払い下げ)を求められます。

役所の手続きには「繁忙期」と「予算」がある

官民査定には通常2~3ヶ月かかりますが、年度末(2月~3月)などの繁忙期にはさらに時間がかかります。

また、もし境界標を入れる費用などを役所側にも負担してもらいたい場合、「今期の予算がないので来年度にしてほしい」と言われ、数ヶ月待たされることもあります。

個人の相続の都合になど、役所は合わせてくれません。

4. 相続税申告期限(10ヶ月)との絶望的なタイムラグ


ここまでお話しした「法人の稟議」や「役所の査定」にかかる時間は、すべて「相続が発生した後」にのしかかってきます。

売却・物納・抵当権設定……すべてがストップする恐怖

相続税を納めるために土地を売りたい。

あるいは、土地そのもので納める「物納」をしたい。 これらを行うには、「境界確定図」が必須です。

しかし、お隣の法人のハンコがもらえない、役所の査定が終わらないとなれば、土地は売れない場合もあります。

10ヶ月の期限は無情に過ぎ、延滞税が発生し、最悪の場合、ご自身の預貯金を切り崩して納税するハメになります。

5. まとめ:相手が「巨像」であるほど、早めの準備が身を助ける


「お隣さんは、しっかりした大きな会社だから大丈夫」

どうか、その認識を今日から改めてください。

「お隣さんが大きな組織だからこそ、今のうちにやっておかないと手遅れになる」 これが、資産防衛の鉄則です。

ご自身がお元気なうちであれば、時間は十分にあります。

企業の担当者ともじっくり交渉できますし、役所の査定も余裕を持って進められます。 何より、きれいな「確定測量図」と「筆界確認書」さえ整えておけば、お子様たちは相続発生後、面倒な交渉に一切煩わされることなく、スムーズに資産を引き継ぐことができます。

「うちの隣は国道だけど、大丈夫かな?」 「隣の会社の看板が変わった気がするけど、所有者はどうなっているんだろう?」

少しでも気になることがあれば、まずは土地家屋調査士へご相談ください。

相手がどんな巨大な組織であっても、私たちはお客様の「守護神」として、大切な資産と権利を守り抜くことをお約束します。

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